OMEGAZONEの信号処理演算方法
OMEGAZONEで使用されているソフトウェア(LSI)は、カルガリー大学のフォレスター(Forrester)博士が開発したものです。
オメガウェーブ(株)のレーザー技術と血流計測分野での経験とを融合させてOMEGAZONEが完成しました。
OMEGAZONEには、高解像度モード、高速モードと高速平均モードの3種類があります。
高解像度測定モード(HR)
高解像度血流分布カラー画像を1秒間に約2枚表示します(800×600)。
20枚の画像から演算しますので、安定した測定ができます。
ピクセル上の点(x,y)の血流に相当する信号IBF(x,y)は、次式で与えられます。
ここでAcはC項の定数、Cは乗数。
ISDはCCDのピクセル毎の光強度(積分電荷)の平均値からの差で、平均受光強度で規格化してあります。
高速測定モード(HS)
血流分布をカラーで1秒間に約15枚表示します。高解像度測定モードに比べて解像度は落ちますが、さらに高速で測定が可能です。高解像度測定モード(HR)では20枚の画像の平均を表示しますが、この高速測定モードでは取り込んだ1枚の画像から血流演算を行います。この場合、平均受光強度は3×3のピクセルの平均値を利用しています。したがって、HRモードに比べて解像度は1/9になります。解像度は266×200です。
高速測定平均化モード(HS-AVG)
2)の高速測定モードで得られた画像を、指定数について平均値を求めて表示します。高速測定モードで得られる画像では平均化することで滑らかな画像が得られます。
高速連続測定モード(EMA)
血流分布を高解像度カラーで1秒約30枚の画像を連続的に表示します。解像度はHRモードと同じ800×600です。
HRモードでは20枚の画像の平均を計算した後に1枚の血流画像を作成していますが、本モードは特殊移動平均から1枚の画像を表示します。
詳細な計算式に付いては、以下の論文をご参照ください。
Forrester, K. R., Stewart, C., Tulip, J., Leonard, C. and Bray, R. C. : Comparison of Laser Speckle and Laser Doppler Perfusion Imaging : Measurement in Human Skin and Rabbit Articular Tissue, Med. Biolog. Eng.& Comp., 40, 687-697 (2002).
原理式では、受光したレーザー光強度の平均値に対する分散が小さいほど血流量が高いと計算されます。高解像度測定モード(HR)では1つのピクセルの受光強度を20回測定してそのピクセルの平均受光強度を求め、各々の回の分散を合計した後にこの平均強度で規格化して血流量を算出しています。従って、高解像度測定モード(HR)に於いては、受光量が多く且つ個々の時点での分散が極端に小さい場合には高い血流量として計算されますのでご注意ください。例としては、白いプラスチック等を測定したときには高い血流値を示します。印としてテープ等を貼るときには、黒いテープをご使用ください。
生体が死んだ後でもわずかに動いているため、この場合には高い血流値を示しませんので、死後まで連続して測定ができます。
測定対象生体組織の周辺が白い固形物の場合に高血流値を示すことを避けるには、高速測定モード(HS)か高速測定平均化モード(HS AVG)で測定してください。これらのモードでは平均受光強度は1点ではなく、7×7点の受光強度を平均して1回で求めています。この平均受光強度と各点の受光強度には差があるので、高い血流値を示しません。
測定深度
光ファイバー式レーザー血流計では照射点と受光点が離れているため、光の強度分布はその距離の関数となり、距離が離れれば相対的な測定深度は深くなります。しかし、本方法では生体組織全面にレーザー光を照射して、照射点からの散乱光を各ピクセルで受光します。従って、レンズのピントが合っている状態では、光ファイバー式レーザー血流計の照射点と受光点が同じ場合に相当しますので、測定深度はやや浅くなります。皮膚では1mm以内と考えられます。以下の論文をご参照ください。
Kashima, S., Spectroscopic Measurement of Blood Volume and Its Oxygenation in a Small Volume of Tissue using Red Laser Lights and Differential Calculation between two Point Detections, Opt $ Laser Technol.,35, 485-489 (2003).
偏光と表面反射
OMEGAZONEでは偏光を利用しています。使用されているレーザーは直線偏光の光を放射しており、生体組織に照射すると生体組織表面で反射されます。生体組織表面の状態は一定ではないので、この表面反射光はノイズ成分になり、また血流値を低めに算出する原因にもなります。
表面反射光は照射光と同じ偏光成分を有しています。従って、照射光の偏光成分を受光しないようにすることで表面反射光を受光成分から取り除くことができます。このためにレンズに独自のハイブリッドフィルターを設置しています。このハイブリッドフィルターは、表面反射光を受光しないための偏光板と、測定用レーザー光(780nm波長)近傍以外の外乱光を取り除くためのバンドバスフィルターで構成されています。このハイブリッドフィルターを用いることで、生体組織内部で散乱した光だけを効率良く受光できるので、安定して再現性のある測定が可能になります。
表面反射と偏光については以下の論文をご参照下さい。
S. Kashima : Non-contact Laser Tissue Blood Flow Measurement using Polarization to Reduce the Specular Reflection Artifact, Optics & Laser technol., 26, 169 (1993).
血流量の単位とレーザーによる血流計測の特性
組織血流量の単位は一般的には、生体組織重量100gに単位時間に流れ込む血液量、[mL/min/100g]、として表示されます。この単位は液体としての単位ですが、レーザー血流計は赤血球からの散乱光を信号処理しており、液体を測定しているわけではありません。レーザー血流計によって得られる値の正しい単位は「赤血球数密度×赤血球流速」(例 : (N/mm3)×(mm/s))のようになりますが1)、この単位で表示すると血流量が多いのか少ないのかも判断できません。従って、当社レーザー血流計では「mL/min/100g」に相当する値として表示しています2)。赤血球数密度は血液量、赤血球流速は血流速度に相当します。
上記のようにレーザー血流計は赤血球数とその速度を検出しているので、単位組織重量に流入する血液量が同じでも生体組織内の血管容量が異なる場合には、異なる血流量(FLOW)の値を表示します。いまレーザー血流計の測定範囲内の生体組織において、血管径が同じで血管容量(血管長)が異なる場合、について考えます(図8, 図9)。ここで図9は図8に比べて血管長がB倍であるとします。両生体組織に1分間にa[mL]の血液が流入し、生体組織100g換算では A [mL/min/100g]であるとすると、組織血流の概念では両図ともに組織血流量はA[mL/min/100g]です。しかし、レーザー血流計の測定対象は赤血球であるので、図8の測定値(FLOW)が「A」の場合、図9の測定値(FLOW)は「A・B」になります。図9 は図8 に比べて赤血球数がB倍であるので、組織に供給できる酸素量もB倍と考えることもでき、組織への酸素供給機能としての血流測定に適していると考えられます。
図8.直線的な血管 図9.血管長が図8.のB倍
1) S. Kashima : Study of Measuring the Velocity of Erythrocytes in Tissue by the Dynamic Light Scattering Method, Jpn. J. Appl. Phys., 32, 2177 (1993).
2) S. Kashima : Measurement of Tissue Blood Volume in a Model System and in the Canine Intestine by Dynamic Light Scattering, Laser. Life Sci., 6, 79 (1994).