測定原理
測定原理
レーザー血流計は、生体組織からの散乱光強度揺らぎ情報を基に血流計測を行っています。ここで扱う血流は、1本の血管内の血流量ではなく、微小循環を含む組織内の血流、組織血流についてです。
微小循環では血流の方向は一方向ではなく、またレーザー光が赤血球に衝突する前に何回か静止組織で散乱されるので、血流方向-レーザー照射方向-受光方向が固定されないため、得られる血流速度は実効値に比例したものとなります。
Fig.1のように、微小な粒子が存在する静止物体内にレーザー光を照射してその散乱光を光検出器(Photo-detector)で検出した場合、得られる電場は各点からの散乱光の電場Eの重ね合わせとなります(Fig.1右上図)。粒子が静止している場合には、各点からの散乱光の位相の関係は時間に関係なく一定なので、光検出器で出力される光強度の信号Iは時間tで変化せずに一定値(直流成分のみ)となります。
Fig.1 Scattered light from non-moving particles and static material
次に粒子が時間t1からt2までにある距離を速度vで移動した場合の図をFig.2に示します。t1時の粒子からのレーザー光の散乱状態とt2時の粒子からの散乱状態は異なり、粒子が連続的に移動している場合にはこの位相のずれも時間的に変動します。したがって、各点からの散乱光が重ね合わされた状態では電場Eの強度が揺らぎ、光検出器の出力としての光強度Iも時間的に揺らぎを生じます。(Ki, Kfは波数ベクトル)
レーザー光の生体組織への照射と受光は光ファイバーによって行われるので、光強度は連続的に受光されます。光強度の揺らぎの速さ(周波数)と大きさ(振幅)が赤血球の流速とその量に対応しており、組織血流量、FLOW,は光検出器出力のパワースペクトルの1次モーメントを受光強度(I)で規格化することで求められます。
FLOW = ∫ωP(ω)dω / I^2(1)
ここで、ωは角周波数、P(ω)はパワースペクトルです。
アナログ-デジタル信号変換後の組織血流量は(2)式で得られます。
FLOW = ΣfP(f)df / P(0)(2)
レーザー光源は小型長寿命である半導体レーザーで、酸素化赤血球と脱酸素化赤血球での光吸収の差が少ない780nm波長を用いています。光ファイバーはグレーデッドインデックス型(GI)で、コア径が100μm、照射-受光間隔は0.5mm程度に設定されています。この場合、測定深度は約1mmです。
Fig.2 Scattered light from moving particles and static material
Fig3にレーザー血流計本体のブロック回路図を示します。基本的にはレーザー光源ユニット、光検出器と光電変換回路だけで構成されています。電源はコンピュータのUSB端子から供給されます。
光電変換された信号S(ω)はレーザへユニット内のA/Dコンバータに入力され、(1)式の演算を行って血流量を求めます。パワースペクトルはFFT(Fast Fourier Transform)によって得られます。FFTのデータ取り込みに要する時間、Tc、は(3)式で示されます。
Tc= N / (2・Fd)(3)
Fig3. Block diagram of Computer-based laser blood flowmeter
Nは検出点数、Fdは周波数範囲です。検出周波数範囲が120KHzで検出点数が12,000点の場合、Tc=0.05秒になります。
コンピュータに表示される画面をFig.4に示します。中央のグラフは血流量の時間変化波形を示し、グラフの右枠内に血流量(FLOW)の値を表示します。右下のグラフは光電変換された信号のパワースペクトルのFFT波形です。測定時にパワースペクトルの周波数分布を確認し、右上のSETUP機能で測定に適した演算周波数帯域を設定します。
Fig.4 Computer display of FFT laser blood flowmeter
血流信号のパワースペクトル
Fig.5に血流速度の速い指先皮膚の場所と、血流速度が遅い前腕皮膚から得られたパワースペクトル波形を示します。レーザー光が赤血球に衝突する前に何度か静止組織で散乱されており、また微小循環の血流ベクトルも一定ではないために、パワースペクトルは広がりを有します。
指先皮膚の血流信号は50KHz程度まで信号成分を有していますが、前腕皮膚では10KHz程度までしか信号成分が存在していません。市販の血流計は24KHz程度までを検出帯域としているので、前腕皮膚を測定した場合には10KHz以上の帯域から生ずるノイズの割合が多くなります。したがって、血流信号に合わせた演算周波数帯域を設定するで、高S/N比測定が可能になります。
Fig.5 Powerspectra of tissue blood flow
Auto Zero Null(自動オフセットゼロ)機能
電子回路によるノイズにより、血流値にオフセットが生じます。このオフセット分を自動的にゼロにする機能(Auto Zero Null)がFLO-Labに設けてあります。電子回路ノイズに生じるパワースペクトルの1次モーメント、∫ωPnoise(ω)dω、は(4)式で表されます。
∫ωPnoise(ω)dω=(A+B×I)×fd(ω)(4)
ここでAはレーザー光を受光しないときの暗電流等によるノイズ分、Bは受光強度に比例するショットノイズ等の係数、Iは受光強度、fd(ω)は演算角周波数帯域の関数です。この式から求められた値を(1)式から減算することで、オフセット分を除去しています。
測定例
レーザー血流計(FLO-C1)と指先皮膚血流を比較測定した例をFig.6に示します。FLO-C1では人差し指、本開発品では中指を測定し、バルサルバ試験を行って血流変動を30秒間記録した。FLO-C1の出力時定数は1秒とした。FLO-Labの設定は、演算周波数帯域:24KHz、FFT波形の平均回数:10回(1秒間平均に相当)、としました。両者の血流波形の変動は同様の結果を示しました。
Fig. 6 Example of finger skin blood flow
血流量の単位とレーザーによる血流計測の特性
組織血流量の単位は一般的には、生体組織重量100gに単位時間に流れ込む血液量、[mL/min/100g]、として表示されます。この単位は液体としての単位ですが、レーザー血流計は赤血球からの散乱光を信号処理しており、液体を測定しているわけではありません。レーザー血流計によって得られる値の正しい単位は「赤血球数密度×赤血球流速」(例 : (N/mm3)×(mm/s))のようになりますが1)、この単位で表示すると血流量が多いのか少ないのかも判断できません。従って、当社レーザー血流計では「mL/min/100g」に相当する値として表示しています2)。赤血球数密度は血液量、赤血球流速は血流速度に相当します。
上記のようにレーザー血流計は赤血球数とその速度を検出しているので、単位組織重量に流入する血液量が同じでも生体組織内の血管容量が異なる場合には、異なる血流量(FLOW)の値を表示します。いまレーザー血流計の測定範囲内の生体組織において、血管径が同じで血管容量(血管長)が異なる場合、について考えます(Fig.7, Fig.8)。ここでFig.8 はFig.7 に比べて血管長がB倍であるとします。両生体組織に1分間にa[mL]の血液が流入し、生体組織100g換算では A [mL/min/100g]であるとすると、組織血流の概念では両図ともに組織血流量はA[mL/min/100g]です。しかし、レーザー血流計の測定対象は赤血球であるので、Fig.7 の測定値(FLOW)が「A」の場合、Fig.8 の測定値(FLOW)は「A・B」になります。Fig.8 はFig.7 に比べて赤血球数がB倍であるので、組織に供給できる酸素量もB倍と考えることもでき、組織への酸素供給機能としての血流測定に適していると考えられます。
1) S. Kashima : Study of Measuring the Velocity of Erythrocytes in Tissue by the Dynamic Light Scattering Method, Jpn. J. Appl. Phys., 32, 2177 (1993).
2) S. Kashima : Measurement of Tissue Blood Volume in a Model System and in the Canine Intestine by Dynamic Light Scattering, Laser. Life Sci., 6, 79 (1994).
コンピュータベースレーザー血流計 OMEGAFLO-Lab 概要/基本仕様 | 測定原理 | 価格